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2020.7.25 週末おむすびチャンネル vol.12

『算法少女』感想編 週末おむすびチャンネル vol.12

『算法少女』(遠藤寛子 著/筑摩書房)は、江戸の町を舞台に町娘のあきが和算を通してたくさんの人に出会い、成長していくお話です。前回のおすすめ編を経てこの本を読んだ梅が、鮭と感想を語り合いました。

 

鮭(おすすめした人)

梅(読んでみた人)

前回の『算法少女』おすすめ編はこちら

 

梅:『算法少女』よかったよ! 読んで、学問の楽しさ、学ぶことの喜びみたいなものを感じたな。江戸時代は義務教育がなくて、全員が寺子屋に行けたわけじゃない。蘭学を学ぶために長崎まで行ったり、苦労して本を手に入れてたんだよね。貪欲に学んだり、新しい知識を得る謙虚な姿勢に刺激を受けたなあ。

 

鮭:うんうん。

 

梅:江戸時代に算法がどうあったかを知れたのもよかったな。独自の方法で円周率を編み出して、それが「秘中の秘の公式」って言われてたり、面積を出すのに「天元術」っていう方程式を使ったり。算法って、魔法みたいだと思った。

 

鮭:魔法! ほんとだね。 

 

梅:算法について語るところで、「どのように高貴な身分の人の研究でも、正しくない答えは正しくない。実にさわやかな学問です」ってあったけど、まさにそうだなあと。

 

鮭:身分も男女も関係ないっていうところいいよね。

 

梅:そうそう! 女性の生き方がすごく縛られていた時代に、主人公のあきが算法を学んで、自分の意思で道を選んで進むっていうストーリーもすごく勇気づけられるというか。

 

鮭:あきかっこいいよね。独立心を持っていて周りに流されず、自分の父親に対しても恥ずかしいって気づくところとか。

 

梅:あきに算法を教えてくれた父親が、ライバルの流派の算法の本を読もうとしなかったんだよね。関流算法だっけ。父親が学んだ上方算法は名もない算法だって言われていて、どちらも同じ算法だけど、お互いを認めてなくて。

 

鮭:そうそう。13歳でも父親に対して偏った意見だったんだって気づく、あきの強さ。あとあきのお父さんと仲のいい俳人の谷素外もよくない? 『算法少女』の出版を提案したのも素外で。当時、本を作ることがどれだけ大変だったか、そもそも手に入れることも難しかったっていうのもわかる。本って貴重だったんだなって。

 

梅:そう、本当に『算法少女』は本の物語でもあるよね。一冊の本を作るのに、版木を起こすところからしなきゃいけない。それから版元を探して、書いた人がお金を出して。そういう江戸の出版事情が描かれているのも面白いね。

 

鮭:江戸時代の『算法少女』も、あとがきを素外が書いてるんだよね。どこまでが事実でどこからが創作なのかなって考えながら読むのも楽しい。

 

梅:国立国会図書館のデジタルアーカイブで検索して、江戸時代の『算法少女』も見てきたよ。物語では、まずお父さんが漢文でまえがきを書いて、その後、あきがかな混じりの文章を書いたって説明がしてあったけど、その通りだった。なんて書いてあるかは読めないけど、あとがきものびのびした筆致で、素外のイメージそのものだったな。

 

鮭:作者の遠藤さんもそういう筆致とか見て人物像を膨らませいったのかもしれないね。

 

梅:あきが算法家の本多利明のところに行った時の本の描写もよかったな。ここ、挿絵も入ってるけど、江戸時代だから本は本棚じゃなくて本箱に入ってるんだよね。それで本箱に入りきらなかった本が畳とか机の上に積んであって、あきはそこで当時は滅多に見ることのできないオランダの本を見るんだよね。革張りの立派な本で。当時、発行されてまだ1年の『解体新書』もあって、父親の持ってる医学の本との違いに驚いたり。そういう本との出会いをあきの目を通して追体験できるのがよかったな。

 

鮭:うんうん。この物語において本多利明の影響って大きい気がする。

 

梅:たしかに、そこから物語がグッと深まったよね。

 

鮭:ね、身分も何も関係ないって言うのも本多さんだし。

 

梅:うんうん。あきが、女に生まれてなければ長崎に勉強に行ってみたかったって言ったのを、「なにをそんな」ってたしなめるところもいいな。「女であれ、男であれ、すぐれた才をもっている人は、だれでもおなじように重んじられなければならない」って。あと、あきが自分が始めた算法の塾で生徒の親からお金をもらうことをためらってて、そのことを本多利明に相談したら、「自分の仕事の値打ちを正しくはかってお礼をもらうのはちっとも恥ずかしいことじゃない、むしろ算法の考え方」って言ったところは感動した。

 

鮭:私もそこ線を引いてた。

 

梅:それこそ忖度でなんとなく金額を出すじゃなくて、確固たる根拠のもと自信を持って示す。私もギャラとかお金の交渉が苦手だから響いたよ。

 

鮭:ああ。

 

梅:もう一つ、この物語に深みを与えてるなと思ったのが政治の話。久留米藩主で算法好きの有馬頼徸が出てくるよね。14歳で殿様になって、それで今は江戸に上がっていて。久留米藩は年貢の取り立てが厳しくて、過去に一揆があって、46人が打ち首になってるんだよね。何人も追放されて未だに国に帰れない人がいて。有馬頼徸は算法好きの大名として描かれていたけど、一方では政治で市井の人を苦しめてきた一面もあって。それを知ったあきは素外に「ずいぶんむごいことをなさったものね」って言う。そうしたら素外が、「殿さまなんて、わしらの考える以上に不自由なものらしいよ」って言ってて。その事情、有馬頼徸の抱えるような側面も確かに政治にはあるんだなあって思って。

 

鮭:ああ、上に立つ人の苦悩とか。

 

梅:そう、男女の違いとか身分によって自由になれないないのは、一緒なのかなと。

 

鮭:あきに興味を持ってお屋敷に呼んだのも 頼徸さんだしね。

 

梅:途中、あきがお姫様への算法指南役としてお屋敷に上がれるかもしれないっていうところで、ライバルが登場するところがあったけど、

 

鮭:宇多ね!

 

梅:そう、宇多だ。ライバルの流派の算法家の娘なんだよね。あきと同じように算法に秀でていて、どちらが姫の算法指南役になるか決めるために、二人がお屋敷に呼ばれて、同じ問題を与えられて解くところ。私、そこで、え、どっちが勝つの? ってワクワクしてたんだけど、もう少し読んでいったら、本多利明が、流派なんて小さなことにこだわってるようじゃダメだって諭してて、つまらないことで胸躍らせてしまってたわ私…って、ちょっと反省した。

 

鮭:(笑)。でもその二人も最後には仲良くなってよかった。

 

梅:うん、一緒に鞠をついて遊んでね。

 

鮭:梅は数学に苦手意識があるって言っていたけど、拒否反応はなかった?

 

梅:和算の問題がいくつか出てきてたね。自分でも解いてみたりしたよ。円周率の外円の長さを求めるところは、お手上げだったわ。でも数学って本来は役立つ学問だし、思考が鍛えられる部分もあるだろうなって思った。

 

鮭:よかった、うれしいな。近所の子どもたちみたいに、お団子を一人2本、人数分買うには全部で何本っていうのも、九九を知らなかったらただ地道に足すだけだけど、九九を知ったら一瞬でわかる。本当に魔法だよね。

 

梅:歴然とした数学の筋の通った世界もいいよね。足すは足すだけ、情状酌量の余地がない世界っていうか。言葉っていくらでもあいまいに言うこともできるし、解釈が揺らいで文脈で意味が変わったりする。昔、『博士の愛した数式』(小川洋子 著/新潮社)を読んだ時も数字の毅然とした美しさを思ったけど、そういう世界もいいよね。忖度関係なく、数字という歴然とした事実がある。 今のいろんな問題も数字を軸にすればスッキリする世界があるんだろうなあ。

 

鮭:数学の証明問題とか結構好きだったな。定型文が簡潔でそれこそ筋が通ってるというか。解けていたかどうかは別だけど(笑)。

 

梅:証明問題、あったあった!そういえば前に、望月教授が「ABC予想」の証明をしたってニュースになってたけど、それもロマンある話なんだろうな。数学にとって重要な超難問だって。私は何が重要で何が解決されたのかさっぱりわかんないんだけど。

 

鮭:600ページもの証明ってすごい。

 

梅:意外とそういう、数の世界からこの社会の問題点を解決する糸口が見つかるかもしれないよね。

 

鮭:ほんとだね。文系理系とかってぱっきり分けるんじゃなくて、いい感じでどちらも取り入れて解決していけたらいいな。

 

梅:本の中で、万葉集に九九が出てくるっていう話もあったね。

 

鮭:うん、ロマンある!

 

梅:「二二」と書いて「し」と読むとか、「十六」を「しし」と読むとか。もう奥ゆかしさにも程があるっていうか。

 

鮭:粋だよねえ。

 

梅:和歌って、今の縦読みみたいな感じで頭文字だけで一個の単語が隠されてるとか、教養がないととても読めないよね。今では解説を読んでようやく理解できるけど。

 

鮭:明治維新で日本の文化は大きく変わったけど、それまでの文化もすごいものだったんだよなあ。体験してみたい。神社の算額とか町人として見上げたかった。

 

梅:ちょっと調べたら、この物語に出てくる関流の算法家の関孝和って実在してて、『天地明察』にも出てくるんだね。本読んだことないんだけど、映画には、算額を関孝和が一瞬で解くシーンがあるらしくて。

 

鮭:そうなんだ。関孝和って群馬生まれって言われてるんだ。上毛かるたの「わ」に「和算の大家、関孝和」ってあって。

 

梅:へえ!じゃあ 関孝和のことは小さい頃から知ってたんだ。

 

鮭:うん、名前だけ上毛かるたで知ってたから勝手に親近感感じてた。でもよかった、数学の苦手意識があった梅が楽しめて。

 

梅:物語って追体験できるのがいいよね。知らない世界にも親しみがわく。これを読んでたら、学生時代にもうちょっと数学に打ち込めたかなあ。

投稿者: おむすびブックス

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