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2020.7.18 週末おむすびチャンネル vol.11

『算法少女』おすすめ編 週末おむすびチャンネル vol.11

今回は『算法少女』(遠藤寛子 著/筑摩書房)を取り上げます。『算法少女』は、江戸の町を舞台に数学が好きな少女が活躍する歴史小説。この本を仕入れた鮭が、おすすめポイントを紹介します。

 

鮭(おすすめする人)

梅(これから読む人)

 

梅:『算法少女』は、ぜひとも強力におすすめしてほしいの。というのも、今まで鮭におすすめしてもらった寺田寅彦とカレル・チャペックは、もともと自分でも読みたい気持ちがあったんだけど、『算法少女』に関しては、本屋さんで見かけても素通りしてると思う。

 

鮭:そうなんだ! 何が違うんだろう?

 

梅:寺田寅彦は一冊ちゃんと読んでみたいと思っていたし、チャペックも平凡社ライブラリーに入ってる海外の随筆に興味があった。でも『算法少女』は、今のところ自分の中で引っかかりみたいなものがゼロなのよ。

 

鮭:そっか、私は本屋さんで『算法少女』ってタイトル見ただけで面白いに違いないって思っちゃった。

 

梅:鮭が好きそうなことは、なんかわかるな。それはどういう気持ちから来るんだろう?

 

鮭:なんだろう、算法自体に興味があったのと、さらにそれを学ぶ女の子ってところにもうぐっとくる。江戸時代に数学やる女の子なんて珍しかっただろうし、どう学んでたんだろうとか思って。しかも完全なフィクションかと思ってたんだけど、この『算法少女』って、江戸時代に本当にあった本のタイトルなの!

 

梅:えっ、そうなの!

 

鮭:そうそう、町娘とそのお父さんの二人で書いた和算書なんだって。

 

梅:意外だ、ほんとに『算法少女』って本が江戸時代にあったんだ。

 

鮭:なんかもうそれだけで物語の香りがするよね。

 

梅:たしかに! それを聞くと、俄然興味が出るよ。

 

鮭:ただ、江戸時代の『算法少女』にはわかってないことも多くて。わかってるのは、江戸の町医者のお父さんとその娘の共著っていうことと、谷素外っていう俳人があとがきを書いてるということぐらい。それで、この江戸時代の『算法少女』の話を小さい頃自身のお父さんから聞いていた作者の遠藤寛子さんが、この本を出版した女の子がどんな子だったかっていうのを想像して書いた物語がこの『算法少女』なんだ。

 

梅:そっか、じゃあこの本の内容は江戸時代あった『算法少女』そのままではなくて。

 

鮭:うん、遠藤さんが、江戸時代に書かれた『算法少女』を国会図書館で見たりして史実に基づきながら女の子の日々を物語にしていったの。

 

梅:主人公は、江戸時代に『算法少女』を書いた女の子なんだ。

 

鮭:そうそう。だからどちらかというと数学の難問云々とかはそこまで出てこなくて、江戸の町を舞台にした女の子のお話で、ちょっと推理小説的な要素もあったり。江戸の話が苦手じゃなければ、楽しめるんじゃないかなあ。

 

梅:そっか、そんな感じの本なんだね。

 

鮭:私はタイトルに惹かれて読んでやっぱり面白かったけど、どうだろう、梅が読んでも面白いかな。

 

梅:でも、江戸時代は興味があるな。

 

鮭:よかった。物語ってどこまで話してしていいのか……始まりだけ話すと、江戸時代って和算の時代で。

 

梅:ネズミが何匹とかの?

 

鮭:そうそう。算額って聞いたことある?

 

梅:うん?

 

鮭:江戸時代、神社とかに和算の問題や解答を絵馬に書いて掲げてたらしいのね。解けたことに対するお礼として奉納してたんだって。

 

梅:あ! そういえば軽井沢の熊野皇大神社で見たことある! 祈祷してもらった時、古い木の板が飾ってあって、算額って言ってた気がする。

 

鮭:それそれ! その算額がこの話の始まりなの。江戸の町で算額を神社に掲げた人がいたんだけど、それを見た主人公のあきが、間違ってない? ってポロっと言ったところから物語が始まっていく。

 

梅:うんうん。

 

鮭:算額って、調べてみたら、農民が掲げていたりもしたみたい。江戸時代って、今みたいに勉強としてではなくもっとクイズ感覚で和算があったんだなあと思って。江戸時代に和算がどういう存在だったかがわかるのもひとつ面白いところかな。

 

梅:クイズ感覚っていうのがいいね。

 

鮭:江戸時代は、女の子が算法なんてやったってしょうがないって価値観があるんだけど、主人公のあきはお父さんから教えてもらう算法が好きで、実際秀でてるの。あと、算法は花道とか茶道と同じように流派がたくさんあって。

 

梅:へえー知らなかった!

 

鮭:あきがお父さんから教えてもらってるのは上方の町人算法なんだけど、上方の算法って武家の高度で複雑な算法からすると、どうせ商売のための算法だろうって低く見られてたりする。最初、あきが間違いを指摘した算額を掲げていたのは武家の子なんだけど。でもそれを、そうじゃない、数学のいいところは身分も男女も関係ない、算法の世界ほど厳しく正しいものはないっていう。

 

梅:ああ、それすごくいいね。

 

鮭:武家でも町人でも間違ってるものは間違ってる、そういうところに気がづいて、あきが最終的にどうなっていくかっていうのが見どころかな!

 

梅:数の上では身分も性別も関係なく平等なんだね。主人公は何歳なの?

 

鮭:13歳。近所に、寺子屋に通うことができない子どもたちがいて、あきが和算を教え始めるんだけど、そこでのシーンもすごくいいの。子どもたちにお団子を買うことになって、今何人いるから一人2本ずつなら全部で何本ねってあきが何気なく言ったら、子どもたちが「なんでそんな早くわかるの?」って。

 

梅:ああ、九九!

 

鮭:そう、九九の存在を知らない子どもたちが、九九ってとても便利だねって言ったりしてて、それもすごい新鮮だった。算数ってもともとそういうものだったなと思って。だから算数に苦手意識がある人にもぜひ読んでもらいたいな。

 

梅:苦手意識、あるある。

 

鮭:児童向けだから読みやすいし!

 

梅:それにしても、江戸時代に『算法少女』ってタイトルの本があったってことは、「少女」っていう言葉があったんだね。それが新鮮だな。なんとなく明治以降の言葉かと思ってた。江戸に少女の概念があったとは。

 

鮭:たしかに。あと、この小説は1973年が初版で、一回絶版になってるんだけど、学校の数学の先生たちが、これはいい本だから復刊した方がいいってずっと働きかけて、最終的に「復刊ドットコム」に登録されて、2006年に復刊されたんだ。

 

梅:へえ! そういう経緯があって、このちくま学芸文庫に入ったんだね。(奥付を見て)この本、2019年発行の第26刷だ。いろんな人に読まれ続けている本なんだね。楽しみになってきたよ。

投稿者: おむすびブックス

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