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2020.10.18 週末おむすびチャンネル vol.23

『生きがいについて』おすすめ編 週末おむすびチャンネル vol.23

今回取り上げる本は、ハンセン病患者に寄り添い、尽くした精神科医・神谷美恵子さんによる『生きがいについて』(みすず書房)。1966年に出版され、当時「生きがい論ブーム」を巻き起こした名著です。

この本を仕入れた鮭が、おすすめポイントを紹介します。

鮭(おすすめする人)

梅(これから読む人)

鮭:有名すぎてどうおすすめしよう。タイトル通り生きがいについて書かれた本なんだけど、実は数年前に買ってずっと積読本だったんだ。少し読んでこれは大切なことが書かれているぞと思って、ポイッてしてて……。

 

梅:そういう本って積ん読になるよね。万全な時に読もうと思って、タイミングを逃しがち。

 

鮭:そうそう。私はものすごく落ち込んだときに読もうと思ってて。でも結局フラットなときに読んだんだけど、いろんなところに共感して納得して考えて、読み終わったら線と付箋だらけだった。神谷さんがこう、真剣に考えながら書いている感じが伝わってきて、言葉がすごく心に響いてくるの。

 

梅:題名の通り、生きがいについて考えさせられたの?

 

鮭:うん。私、なんで生きてるんだろうっていうのはよく思うんだけど、その先の生きがいは真剣に考えたことなかったんだ。生きがいを感じたこともあまりないような気がするし。でもこの本を読んだあとすごい考えて、迷宮入りしたよ。もうとにかく、この厚さで全部生きがいについて書いてある。生きがいとはっていう定義づけから始まって、生きがいを奪い去るものってなに? 奪い去られたあと新たな生きがいはどう見つける?って順を追って考察されてて。

 

梅:神谷美恵子さんは精神科医なんだよね?

 

鮭:そうそう。学生の頃ハンセン病療養所を訪ねたことがきっかけで医学の道を目指した人なんだ。それまでは、子供のころスイスに住んでたこともあったりして、語学を勉強していたみたい。お医者さんになることは家族にしばらく反対されていたんだけど、25歳でやっと許しが出て医学部に入ることができて、ちょうど戦争中に精神科医になったっていう。

 

梅:へえ、戦時中に精神科医として働いていたんだ!それでこの『生きがいについて』は何歳くらいのときに書いたんだろう。出版は1966年とあるね。

 

鮭:出版は52歳のときなんだけど、書き始めたのは46歳のとき。6年くらいかかってるんだよね。ハンセン病療養所で精神科医として働き始めたのが43歳のときで、その少し前にはご自身に初期のがんが見つかってて。

 

梅:じゃあ、自分の患者としての経験とか、医師としての視点も本に反映されているのかな?

 

鮭:この本ではそのあたりはほとんど触れられていなかったな。それよりもやっぱり精神科医として、社会と隔離されて暮らすハンセン病患者さんと向き合う日々の中で考えたことが中心で。いろんな患者さんの話も出てきて、その方たちのエピソードもすごく心に残ってるよ。

 

梅:実は私、『生きがいについて』を読むのはけっこう身構えてるところがあるんだよね。NHKの「100分 de 名著」って番組でこの本が取り上げられて、私、その放送自体は見てないんだけど、出演してたベテランのアナウンサーが『生きがいについて』を読んだことで、もともとの夢だった医師を目指すためにNHKを退職したってエピソードがあって。読んだ人の生き方にこんなに影響を与える本なんだって、すごく印象に残ってるの。鮭もこの本を読んでなにか影響があった? 

 

鮭:今のところそこまで大きな変化はないなあ。でも自分の日々に大きな影響はないけど、つらいこととか行き詰まったりしたときは読み返したいし常に本棚の目につく位置には置いておきたいなって思ってるよ。何が大切かって教えてくれる感じかな。

 

梅:つらい時の心のあり方を、客観的に見つめられるのかな。

 

鮭:そう、そんな感じ! 辛い、苦しいってわけがわからなくなってる状態が整理整頓されるというか。あなたはどう?って問いかけられている気もするし。この本、ジャンルでは思想書って言われてるけど、エッセイのようでもあったな。

 

梅:おむすびブックスでは、STANDARD BOOKSの『神谷美恵子 島の診療記録から』(平凡社)を鮭が最初から入れてて、何度も再入荷してるよね。私、その本は半分ぐらい読んだの。いろんな年代に書かれた短い文章が入ってるアンソロジーでけっこうスラスラっと読めるというか、ほんとエッセイみたいで新聞の家庭欄とかに載っていそうだなって思った。

 

鮭:うんうん、 STANDARD BOOKSもこの本も、言葉がすごく丁寧でわかりやすくて、思っていることがまっすぐ書かれていて心に響く。今出版されてる『生きがいについて』は、最後に執筆日記がついてるんだけどそれもすごくよかったよ。「こんなつまらないものを出す価値があるのろうか」って書いてる日もあれば、「もっと書きたくて死にそうだ」とか「どこでも一寸切れば私の生血がほとばしり出すような文字、そんな文字で書きたい」って書いていたり。情熱を持って考えて考えて考え抜いて書き上げた本なんだっていうのがこの執筆日記からもすごく伝わってくる。

 

梅:STANDARD BOOKSを読んでいて、「使命感」の危うさについて書かれていたところはすごく腑に落ちたな。使命感ってともすると視野が狭くなって、客観性を失いやすくなるって。これは、ほんと心に刻んでおかねばと思ってる。

 

鮭:ああ、使命感は生きがいを考える上で大きなテーマだった。「どういうひとが一ばん使命感を感じる人種であろうか。(略)使命感に生きる人ではないだろうか」ってあったり。だからといって使命感を感じないといけないのかっていうとそうでもない気がするし……そのあたり感想編で話したいな。梅は生きる意味って考えたりする?

 

梅:生きる意味…考えないなあ。私、そもそも生きがいって持たないとダメなんですかね、って思ってるところがある。まだ『生きがいについて』を1行も読んでない今は、「生きがい」って言葉にちょっと引っかかってるのよ実は。生きがいも使命感と同じで、危うさと紙一重じゃない? 生きがいがあって楽しく生きられる人はもちろんそれでいいけど、「生きがいのある人生が価値のある人生」みたいな風潮は苦しくなりそう。だから読んで今の気持ちがどうなるのかなっていうのも楽しみだな。

投稿者: おむすびブックス

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