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2020.8.9 週末おむすびチャンネル vol.14

『服従の心理』おすすめ編 週末おむすびチャンネル vol.14

今回取り上げる本は、『服従の心理』(スタンレー・ミルグラム 著/河出書房新社)。人は権威のある人から命令されると、自分の意に反することでも服従してしまうのか。1960年から3年間かけて行われた、通常「アイヒマン実験」の手法と結果がまとめられた一冊です。

この本を仕入れた梅が、おすすめポイントを紹介します。

梅(おすすめする人)

鮭(これから読む人)

 

梅:『ある晴れた夏の朝』(偕成社)の感想を鮭と話していた時に、なんで人は権力者のいいなりになってしまうのかっていう話になったけど、『服従の心理』は、まさにその心理について検証した本なの。

 

鮭:おもしろそう! どうやってこの本に行き着いたの?

 

梅:おむすびブックスでこの本を仕入れたのが2年前の夏なんだけど、発注の履歴をたどると、『組織の不条理- 日本軍の失敗に学ぶ』(中央公論新社)っていう本も同じタイミングで仕入れていたんだよね。当時、新体操とかアメフトとかスポーツのパワハラが問題になっていて、集団になると同じような問題がどこでも起こるなあと思って、たぶん俯瞰して考えたくて、この本を見つけたんだと思う。

 

鮭:この問題、私もすごく気になっているよ。 ほんと、なんでなんだろう。

 

梅:この実験は、ヒトラーの部下の名前をとって、「アイヒマン実験」とも呼ばれていて。ナチスのユダヤ人虐殺は、ヒトラーの命令に従ったから起こったわけだけど、虐殺に加担していた部下のアイヒマンは戦後の裁判で、自分の仕事をしただけだと言ったらしくて。虐殺なんてサディストじゃないとできないんじゃないかと思いきや、アイヒマンは普通の官僚だった。じゃあ、人は命令されると何でもしてしまうのか。それを著者のミルグラムは1960年から1963年にシンプルな実験で検証したの。ミルグラムはアメリカのイェール大学の心理学の教授なんだけど、この本はその実験の手法とどういう結果だったかが書いてある。

 

鮭:(本をめくって)最初に「母と父の思い出に捧ぐ」って書いてあるね。

 

梅:ミルグラム自身がユダヤ人にルーツがあるみたい。あとがきに「1933年にユダヤ系移民のパン屋の息子としてニューヨークに生まれた」って紹介されてる。当時のアメリカ社会でミルグラムの家族がどんな境遇だったかわからないんだけど、自分のルーツにあたる人たちがあんなにたくさん虐殺されたっていうのは思うところがあるよね。

 

鮭:そっか、もしかしたら親戚とか親の知り合いがいたかもしれない。

 

梅:そうだよね。ミルグラムは、どうして人は服従してしまうのか、より普遍的な答えを探るために、基本の実験を行って、さらにいくつもバリエーションを作るのね。その手法もよくできてるなあと思った。基本の実験は、まず、実験協力者を募集する広告を地元紙に出して被験者を集めるの。でもそれは嘘の広告で、記憶と学習についての研究に協力してくれる人を募集しますと。お金もいくら支払うって書いていて。

 

鮭:(ページをめくって)これ?

 

梅:そうそれ!冒頭にどんな広告だったか載ってるよね。それでニセの広告に応募した人が、イェール大学の研究所に行くの。何も知らない被験者は2人1組になって、くじで「学習者役」と「先生役」にわかれて、学習者役は椅子に縛り付けられて単語の一覧を覚えさせられる。先生役は、学習者役が間違えるたびに電撃のショックを与えるよう言われるの。あの、よくテレビの罰ゲームなんかに出てくるビリビリってくるやつ。先生役は、電気ショックを与えるボタンがいくつも並ぶ機械を前にして、間違えるたびに前よりも大きな電気ショックを与えるように指示されるんだけど、学習者役は電撃が大きくなるにつれて、痛くて悲鳴をあげたり絶叫するようになるの。でも実は、学習者役はこの実験のために訓練された役者で、電撃は受けてない。痛いって演技をしているのね。

 

鮭:実験に応募した人じゃないんだ!

 

梅:そうそう。実はこの実験の被験者は一人で、くじ引きも、役者が必ず学習者役になるように仕組まれてる。先生役は、表向き、実験の目的は罰がどれだけ学習に効果があるかを調べるためだと聞かされているから、実験に協力するためには相手が痛がっていても電撃を加えていかなきゃいけないわけだよね。

 

鮭:なるほど! それで服従が。

 

梅:しかも、指示を出すのは、イェール大学の教授という権威がある人。これで服従が生まれる仕組みを作ったの。

 

鮭:そんなのみんな押しちゃいそう! 押すしかない。

 

梅:あ!そう思う? 自分が押すことで、相手がめちゃくちゃ痛がってるんだよ?

 

鮭:すごい嫌だろうけど、これ押さないと実験にならないし…あ、でも実験だから辞退してもいいのか…。

 

梅:うん、そもそも自分の意思で参加してるから強制じゃないしね。この実験のキモは、先生役になった被験者がどのぐらいの強さのボルトまで押すかでもあるんだけど、電撃のショックが大きくなるほど、演技する人も「もうやめてくれ!」とか言って、感情的に抗議する。それを見て被験者も「すごく痛がってますけど、まだ続けるんですか」って聞く人もいたりするんだけど、教授に続けてくれって命令される。それに抗って自分の意思を貫いて途中でやめるか、最大のボルトまで電撃を与え続けるのか。最後まで続けたら服従したことになるし、どこかのポイントではっきりと拒んで、「私はやりません」って拒んだら、服従しなかったことになる。

 

鮭:なるほど! おもしろい!

 

梅:ね。しかも、もし命令が戦時中の軍隊だったら、服従しなかったら自分が殴られたりするでしょ、でもこの実験の場合はそんな状況じゃない。暴力で支配されてるわけじゃなくて、ただ言葉で続けてくださいって言われるだけ。自分に危害が加わるわけじゃないからより服従は起こりにくい状況ではあるんだけど、じゃあ、どれくらいの人が服従するのかっていうのが実験で明らかになる。

 

鮭:そっか、お金をもらってるっていうのも大きいのかな。

 

梅:そうかもしれないよね。それで、この実験は、バリエーションがいくつもあって、例えば、この実験がイェール大学じゃなくて、よくわからない組織がやっていたらどうか。指定された場所に行ってみたら、ボロボロの地下の一室で。

 

鮭:怪しげな。

 

梅:そうそう、聞いたことない名前の団体の人に命令される。要はそのバリエーションは権威を弱めてるんだよね。そしたら人はどうするか。

 

鮭:頼りないリーダーみたいな感じかな。

 

梅:そうそう。あとは先生役が複数いたらどうか。複数っていっても他の先生役はみんなサクラなんだけど、まわりが「もうやめよう」と言ったら被験者はなびくのか。

 

鮭:ああ、そういう状況は仕事でも往々にあったりするね。

 

梅:うん。あと、この本には個々の被験者の会話の記録も載っているから、臨場感があって生々しいんだよね。被験者が「こんなの責任取れませんよ!中で悲鳴あげてるじゃないか!」って抗議したら、「続けてもらわないと困ります」って返されて押し問答を続けるところとか。どういう流れで服従していくのか、その変遷がわかる。

 

鮭:写真とかグラフも載ってるんだね。

 

梅:特にグラフは細かいところまで載ってる。この実験結果は当時の社会に衝撃を与えたみたいで、あとがきを読むと、アメリカ軍の教育を見直したり、コンプライアンス規定を設けた組織がたくさんあったって紹介されてた。しかも、民主主義が確立してると思われてたアメリカで行われた実験で、この結果だったのか、というのが驚きだったみたい。

 

鮭:確かに国によっても結果が違いそう。我が身を振り返りながら読みそうだな。

 

梅:うん、私も自分だったら、この実験でどうやって対応してたかなって考えながら読んでた。

 

鮭:読んでない今は、服従しちゃうだろうなって思ってる。もし自分が被験者だったらある程度辛そうなところまで押しちゃいそう。

 

梅:すごい、客観的だね。実験結果を予想するアンケートだと、多くの人が相手が少しでも痛がったらそれ以上は押さないって回答してたよ。「自分が苦痛を与えるのは耐えられない」って。私もどっちかというとそう思った。

 

鮭:そうなんだ。あれ、私非情なのかも…。本当に死んじゃうんじゃないかなと思った時に「これ以上できません」って言うかな。

 

梅:私は、個別の被験者の会話を読みながら、こんなふうに言われたら服従しちゃうかなとも思ったし、でも自分だったらこうするんじゃないかなというのもあったりして。読んだあと、そのあたりも鮭に話を聞きたいな。でもさ、自分を振り返ると、学校からしてそうなんだけど、服従しないと成り立たない場面がたくさんあったよね。その中でずっと育ってきてるから、服従を受け入れやすくなってるっていうか。

 

鮭:確かに。服従って本能なのかな。

 

梅:考察の章にそういうことも書いてあったよ。

 

鮭:わ、早く読みたい!

 

梅:今の社会でもパワハラとかいじめとか、権威と服従の関係で起こる事件も変わらずあって。でもさ、服従の心理があるなら、権威の心理も知りたいよね。

 

鮭:うんうん。権力を持つことによって変わっちゃう人もいるし。

 

梅:権力によって、一部の人は愚かになってしまうっていう検証も科学的にできそう。権威を持つことによって攻撃性を増すタイプの人間がいると思うんだよね。合理的に考えられなくなって、マスクを追加で配れって言ったり。

 

鮭:めっちゃ最近のやつ!

 

梅:そういう本も出てるのかな。調べてみよう。

 

鮭:前に梅が「権力はどんな麻薬よりも中毒性がある」って言ってたのも興味ある。

 

梅:ああ、その時に読んでた小説に書いてあったんだよね。

 

鮭:服従ってどんなところにもあるし、無意識のうちに自分がさせてるかもしれなくて。

 

梅:うん、服従の心理を知って意識するだけも見方が変わるし、同じ服従をするにしても、自分の溜飲がさがる服従の仕方があるかもね。でも、従いたくないって意識があるうちはまだよくて、命令を遂行するのが自分の使命と思って、倫理観がなくなることも多々あって。

 

鮭:アイヒマンもそうだったのかな。

 

梅:怖いよね。実験が行われたのはずいぶん前だけど、未だにこの問題は解決できてない。だから読まれ続けているのかもね。

 

投稿者: おむすびブックス

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