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2020.8.16 週末おむすびチャンネル vol.15

『幻獣辞典』おすすめ編 週末おむすびチャンネル vol.15

今回取り上げる本は、『幻獣辞典』(ホルヘ・ルイス・ボルヘス著/河出書房新社)。

世界各地に伝わる架空の生き物や小説に出てくる不思議な動物など、120の「幻獣」を辞典としてまとめた一冊です。

この本を仕入れた鮭が、おすすめポイントを紹介します。

 

鮭(おすすめする人)

梅(これから読む人)

鮭:今回ははじめに梅に言っておきたいことがあって。『幻獣辞典』、ほんとタイトル通り辞典なので最初から順番通りに読まなくていいし、なんなら全部しっかり読まなくても大丈夫だから!

 

梅:ほんと! 興味あるところだけでもいい?

 

鮭:うん、それだけでも全然いい! ちょっとこれまでの梅の読む本の傾向とは全然違う気がして心配で(笑)

 

梅:確かに、自分が好んで読む感じじゃないんだけど、でもいい機会だから読んでみるよ。幻獣って、想像上の生き物のことなんだよね?

 

鮭:そう。世界中のいろんな土地に伝わる伝説や、文献とか小説に出てくる空想の、実在しない生き物を集めた本なんだ。初版が出たのが1957年なんだけど日本のヤマタノオロチとかも入ってるの。あとカフカの小説に出てくる生き物とか。

 

梅:元ネタを知ってると面白いのかな。知らなくても楽しめる?

 

鮭:知らなくても楽しめると思う!  引用してる文献の量がすごくて、詳しい人はかなり深く読み込めると思うんだけど、そうじゃなく私みたいに何も知らなくても、好奇心で楽しめたよ。ウィキペディアは欠かせなかったけど、注釈もたくさんついてるし。

 

梅 ウィキペディアで調べながら読んだんだ!

 

鮭:注釈にもない言葉を調べたり、あと幻獣も検索すると結構ビジュアルが出てくるの。いいなと思ったのとか、あとどうしても腑に落ちない幻獣とかよく検索してた。例えば「ニスナス」って幻獣、「片目、片頬、片手、片足、胴体片方、胸片方しかない」ってあるんだけど、立ってる様子が想像つかなくて。

 

梅:すごい生き物だね。

 

鮭:検索してみたら確かにその通りではあったんだけど…。あと読みながら実際に自分でも描いてみたり。読んで想像して気になったら検索して答え合わせするっていうのを繰り返してた。

 

梅:鮭って、ファンタジーの物語をあまり読んでこなかったって言ってたけど、こういう想像上の生き物には興味があるの?

 

鮭:うーん、私の中では理科に近いのかもしれない。本の中でよく「博物誌」っていう本の内容が引用されているんだけど、この本、古代ローマ時代のプリニウスっていう博物学者が、地学や植物学とかの科学的なことや文化、歴史とか、とにかくあらゆる知識を37巻にまとめた、百科事典みたいな本なの。主には文献を参考に書いてるらしいんだけど、その中には幻獣とか非科学的なことも混じってて、そのいっしょくたにする感じがおもしろくて。

 

梅:うんうん。

 

鮭:プリニウスは、ヤマザキマリさんととり・みきさんの「プリニウス」っていう漫画で知ったんだけど、とにかく好奇心がものすごいんだ。ヤマザキさんがプリニウスのことを「世界を丸ごと把握したいという好奇心とバイタリティがすごい」って言ってたんだけど、まさにそんな感じ。私も生き物も幻獣も丸ごと知りたい…。

 

梅:そうか、現実と非現実の曖昧な部分にそういう幻の生き物がいるのかもね。案外100%作り物でもないという。

 

鮭:本当にそう。

 

梅:妖怪もそうだよね。

 

鮭:そうそう! この本に出てくる幻獣は、水木しげるが描く妖怪の海外版みたいな感じだと思ってる。あと例えば象とかも、初めて見て、その一回きりしか見かけなかったらそれはもう幻獣っていう扱いになるかもしれないし。

 

梅:子どもの目になるっていう感じなのかな。小さな子どもの世界には、現実にあるものも空想上のものも同一線上に存在しているから、アンパンマンもザリガニも、みんな自分のまわりに存在している現実なんだよね。

 

鮭:うんうん。ボルヘスも序文で「幼い子供が初めて動物園に連れられていく。(略)動物の王国の驚くべき多様性を彼は初めて目にし、驚嘆するか怯えるかするその光景を楽しむ。それがおおいに楽しくなって動物園へ行くことが幼年時代の喜びのひとつとなる、あるいはそう思う。この日常的な、にもかかわらず神秘的な出来事を我々はどう説明できるだろう」って言ってて。ほんと子供の目になって動物園に行く感覚。

 

梅:よく考えたら、ザリガニとか亀とか不思議だよね。すごい奇妙な形態をしているというか。

 

鮭:殻とか甲羅とかおかしいよね。幻獣って生まれるにしても何かしらきっかけがあった思うんだ。実際に何かを見たとかじゃなくても、「ここに行くといつも音がする、風が吹く」とか。今は科学の力でなんとなく理由を知ることができるけど、昔はまず想像力を膨らませてたんだろうな。

 

梅:そういえば、幻獣っていまだに生まれ続けてるよね。ピカチュウとかもそうだよね。

 

鮭:確かに! そうそう、結構この本に出てくる幻獣を検索すると、ゲームとかアニメのキャラクターになってたりするの。幻獣がそのままモンスターになってたり。例えば、この本で最初に出てくる「ア・バオ・ア・クゥー」、目には見えない幻獣なんだけど、ガンダムに出てくる宇宙要塞の名前なんだ。「スキュラ」っていう怪物もモンストのキャラだったりとか。

 

梅:へえ、そうなんだ!

 

鮭:梅の子どもが大きくなって、モンストとか好きになった時に幻獣の話をしたら、きっと尊敬されると思う。

 

梅:それいいね! そうやって今に接点があると思うと興味が湧いてくるな。現代の人たちを楽しませているキャラクターが、こういうところからっていうのは面白いよねえ。

 

鮭:うん。あと、幻獣を通してその土地の文化に触れることができるのもおもしろい。そういう意味では民俗学的でもあるのかな。

 

梅:ほんとだね。昔って人間の力じゃどうしようもない災害や疫病に苦しむことが多くて、それを幻獣のせいにしたり、逆に助けてくれる幻獣を作りだしたりして、想像に頼る部分が多かったんだね。今もアマビエが流行ってるしね。

 

鮭:アマビエ!そうだ。

 

梅:コロナ禍の今、世界は再び幻獣の力を必要としているのか。

 

鮭:そうかも。これだけ科学が進歩してるのに。

 

梅:ね。どれだけ進歩しても、結局神頼み…とくに、こういう前代未聞の事態になると幻獣の力を頼りたくなるのかな。

 

鮭:実態がわからないものってやっぱり原因を探りたくなるというか。科学的に証明できないものは幻獣とかに行き着くのかな。そういう心理もおもしろいね。

 

梅:江戸時代のナマズ絵もそうだよね。地震を起こすのはナマズのせいで。ナマズをひっ捕らえる絵をかいて、江戸の人が溜飲を下げるとか。

 

鮭:まさにそれ、この本に書いてある! 「神」って項目で、地下にナマズの形をした神がいるっていう話。うなぎ説もあって「頭は京都の地下に、尾は青森の地下にある」と具体的に書かれてたりして。地震は南の方が多発してたから上下逆って意見もあるみたいなんだけど。

 

梅:なるほど。

 

鮭:でももう、この本を読んでると事実ってなんだろうとも思えてくる。例えば星座にもなってる半人半馬のケンタウロスも幻獣だって知ってるけど、「ケンタウロス」の項目に引用文で「乗り手のひとりが落馬した。するとこれまでその動物を一体だと思っていたインディアンたちは、それがばらばらになったのを見ると恐れ戦いて逃げていき、獣がふたつになったと仲間たちに大声でふれまわり、このことを不思議に思うようになった」ってあって、すごい新鮮だった。馬を知らないで、乗馬姿だけを見ていた人にとってケンタウルスは実在してたんだなとか。

 

梅:人間の先入観が生み出した幻獣なのかな。理解を越える現象にであった時に、知ってる範囲内で物事を把握しようとすると幻獣が生まれるのかな。

 

鮭:ああ、そうかもしれない。自分が知ってる世界に突然新しいものが入ってきたらどうするだろうって。

 

梅:どう脳で処理するかっていうね。

 

鮭:うんうん。

 

梅:そうか、読んだら新しい世界の扉が開きそうだなあ。

 

鮭:よかった。おすすめの幻獣をばーっと言っていい? 結構あるんだけど50音順になってるから。

 

梅:うんうん。鮭セレクト、教えて。

 

鮭:「ア・バオ・ア・クゥー」「ある雑種」「鏡の動物誌」「神」「形而上学の二生物」「ケンタウロス」「死者を食らうもの」「スクォンク(溶ける涙体)」「スフィンクス」「西洋の竜」「タロス」「中国の動物誌」「トロール」

 

梅:ああ、トロールってあの…

 

鮭:そうそう、ムーミントロールのあれ。あとさっき話した「ニスナス」「熱の生き物」「バハムート」「パンサー」

 

梅:ピンクパンサーのパンサー?

 

鮭:そうそう! 実在するけど幻獣としてもいるの。ペリカンとかキリンもいた。あとは「バンシー」「百頭」「フェアリー」「フェルテ=ベルナールの毛むくじゃら獣」「墨猴」「マンドレイク」。これは聞いたことある?

 

梅:マンドレイク? ないなあ。

 

鮭:これも実在する植物なんだけどハリーポッターにも出てくるみたい。あと「ミルメコレオ」。こんな感じ!

 

梅:よし、目次にマルつけたよ。少なくともおすすめは読んでみるね。

 

鮭:ぜひ。あと最後に訳者の柳瀬尚紀さんの解説があるんだけど、はじめにここを読むのがいいかもしれない。著者のボルヘスを幻獣のひとつに見立てて書いてるんだ。

 

梅:おお、それ面白いね。洒落てる!

 

鮭:そうなの。途中でボルヘスのことを「この怪物は」とか言ってたりして。

 

梅:ほんとだ。この見出しも他の幻獣と同じ書体と級数で。

 

鮭:ボルヘスがどんな人だったかっていうのを知って読むとおもしろいと思う!

 

梅:読みたくなってきたよ。

 

鮭:本当に!よかった。ほんと無理せず、疲れた時にパラパラめくる感じで少しずつ読むのがおすすめ。

 

梅:うん。寝る前とかに読んでみる!

投稿者: おむすびブックス

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