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2020.10.3 週末おむすびチャンネル vol. 21

『切りとれ、あの祈る手を』おすすめ編 週末おむすびチャンネル vol. 21

今回取り上げる本は、2010年に刊行された『切りとれ、あの祈る手を  <本>と<革命>をめぐる五つの夜話』(佐々木中 著/河出書房新社)です。

おむすびブックスでこの本を仕入れた梅が、鮭におすすめポイントを紹介します。

梅(おすすめする人)

鮭(これから読む人)

 

梅:今回のおすすめ編のために再読したんだけど、いや、すごかった。今、読み終わって1週間くらい経ってるんだけど、まだその世界に片足突っ込んでる感じというか。

 

鮭:濃そうな本!

 

梅:そうなのよ。濃くて重くて、どう紹介するのがいいんだろう…帯に「取りて読め。」と書いてあるけど、ほんと気持ちとしては「読んで!以上!」(笑)。

 

鮭:ふふ。

 

梅:そうだ、前にこの本のキャプションを書いて、おむすびブックスのホームページに載せてたんだけど、ある版元の人がその投稿を読んでくれたみたいで。請求書のやりとりをするときに、わざわざ一筆、年に1回は読み返して心を奮い立たせている本ですって書いてくれてたの。

 

鮭:へえ、そんなことが。

 

梅:そう、そんな個人的なエピソードもある本で。あと、SEALDsって覚えてるかな、5年くらい前に国会前で安保法制反対のデモをしていたでしょ。その活動にも影響を与えた本みたい。

 

鮭:SEALDs! 学生の政治団体だよね。

 

梅:うん、2015年〜2016年に活動してたんだけど、当時よくメディアでも取り上げられてたよね。そのSEALDsのホームページに、メンバーによる本の選書リストがあって、この選書リスト自体がすごくいいんだけど、そこに『切りとれ、あの祈る手を』について「最も多くのSEALDsメンバーが愛読し、影響された一冊である」って書いてあったの。

 

鮭:すごい影響力だね。革命の本なの?

 

梅:そう、過去に起きた革命と本を読むということの関わりを紐解いて、文学の可能性を探っていくという内容で。

 

鮭:なるほど、それで副題に「<本>と<革命>をめぐる〜」ってあるんだ。

 

梅:具体的に言及しているのは、ルターの宗教改革、イスラム教の預言者のムハンマドの革命、中世解釈者革命なんだけど、そこには読むっていう普遍的な行為があって、それによってどのような革命が起きて世界が変わったかが書かれているんだよね。

 

鮭:私、世界史あまり知らないんだけどついていけるかな。

 

梅:私も高1で世界史は終わってて、中世解釈者革命なんてこの本で初めて知ったくらいだけど、でも知識がなくても面白かったよ。ニーチェとか現代のフランスの哲学者の言葉を引用してたり、オウム真理教の話なんかも縦横無尽に出てきて。世界史的な話も出てくるんだけど今につながる。根底は本を読むとはどういうことかというテーマがあって、やっぱりさ、本を読むのが好きだし、本の仕事をしているじゃない、だからよけいに響くものがあると思う。本を扱う私たちへのメッセージでもあって。何か所か泣きそうになったくらいの感じ。なんだろう、読むっていうことの深遠な可能性と、自分も世界を変えうる一員なんだと思ったかなあ。読んでてほんと興奮したし、鼓舞されたな。腹の底から力が湧いてくるような。しかも、実際にこの本を読んだ若い人たちが、あのSEALDsの活動に踏み出したっていうのが…ちょっと考えただけでも胸が熱くなるというか…。

 

鮭:そんなに! 難しいのかなって思っちゃってた。

 

梅:でもね、話し言葉だから思ったよりスラスラ読める。言葉にパンチがあって飽きないんだよね。最初の何ページか読んだら掴めるんじゃないかな。

でも私、この本の内容が全部理解できてるわけじゃなくて。「ここからが重要」って言ってる肝心なところ、わかんないって書き込みしてるし。でも、わからないから本がつまらないのかというと、そうじゃない。わかんないんだけど、続きを読ませる力があって、意図は受け取れると思う。そもそもこの本の中で、読んですぐ理解できるわかりやすい本なんて、読む価値があるのかということが書いてあるの。本は読めないものだ、本当に読んだら気が狂うくらいのことなんだって言ってるから。

 

鮭:心強い! 辞書片手に読む感じ?

 

梅:私は読みながらちょっと調べたりはしたな。いろんな哲学者とか思想家の名前がガンガン出てくるんだけど、その人が現代の人なのか、アリストテレスくらい昔の人なのか、読む上でそのへんはわかったほうがいいなと思って。これは今の話なんだ、これは古代の人の発言か、とか確認しながら読んでた。

 

鮭:そっか、勉強にもなりそうだね。今、目次のページを見てるんだけど、目次が詩みたい。

 

梅:面白いよね。普通、本って目次の小見出しと本文の小見出しが対応してて、小見出しにページ数が入ってるけど、この本はそうじゃないんだよね。目次がレジュメのようになっていて、本文を読んだ後で、目次を読み返すと、そういうことかって理解できたりもして。

鮭:そうなんだ、目次もしっかり読もう。あとそれぞれの章の頭に日付が書いてある。

 

梅:うん、副題に「五つの夜話」とあるけど、ある初夏の夜に5回に分けて著者が語るという体裁で進む本なの。第一夜から第五夜まで。これはね、絶対に順番に読んだ方がいい。

 

鮭:なるほど、ムハンマドが気になるから先に第三夜を読んじゃおうとかはやめた方がいいんだね。

 

梅:そう、やりたくなるけど、我慢して! 各章が積み重なって最初に書かれた意味が後になってわかったりするから。順番に読んでいって、たどり着いた第五夜を、ぜひ堪能してほしい。

 

鮭:わかった! 順番に読むね。著者の佐々木中さんは大学で哲学とか宗教学を教えてる方なんだね。

 

梅:うん、この本の前に『夜戦と永遠−フーコー・ラカン・ルジャンドル』っていう本を書いてるよ。ライムスター宇多丸さんと交友があるみたいで、この本が生まれたのも、宇多丸さんに勧められたからなんだって。その経緯があとがきに書いてあるんだけど、最後にこのあとがき読んだら、また胸にくるものがあって。この本の存在がどれほどの人の心を鼓舞して影響を与えたかと思うと、もうね…。私、思想書って難しいとすぐ眠くなっちゃうし、自分が理解できないことを棚に上げて言ってるけど、思想のための思想というか、机上の議論のような気がして。でもそんな私でも、この本を読んだ今は、自分が理解できるとか得になるかって観点じゃなくて、もっと深く本に接したいし、いろんな古典的な思想書を読んでみたくなったよ。

 

鮭:世界が広がりそう!

 

梅:あとね、おむすびチャンネル的に言えば、この間、『服従の心理』を読んだけど、権威と服従の文脈でも読めたよ(※おむすびチャンネル『服従の心理』感想編参照)。命令に従うこととか、法という権威のもとに権力者がいる構造とか、新たな視点を持てると思ったな。それともう一つは詩(※おむすびチャンネルでは、「詩ってなんだろ?」を連載中)。ムハンマドと詩の関わりのエピソードもあって、詩の可能性みたいなものを考えるにも、この本を頼りにできるんじゃないかなと思った。そもそもね、『切りとれ、あの祈る手を』っていうタイトルも、ある詩人の詩からの引用なの。第五夜にその詩人のことが出てくるんだけど、ちょっとね、ぞっとするほど重みがある。言葉を扱う仕事をしているけど、その言葉に対する認識も変えなきゃいけないなと。

 

鮭:すごい、ほんといろんな読み方ができる本なんだ。

 

梅:…と、こんな言い方でよかったかな。こんなに話したあとであれだけど、私、いま再読した直後で最高に熱量が上がってるから…どうだろう、ちょっとハードルが…

 

鮭:うん、めちゃめちゃ期待値上がってる(笑)。でも一気に楽しみになった。まずは読んでみるね。

 

梅:うん、ぜひぜひ。なんの心配もせず、飛び込んでいって!

投稿者: おむすびブックス

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