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2020.5.22 週末おむすびチャンネル vol.3

『三つ編み』感想編 週末おむすびチャンネル vol.3

「週末おむすびチャンネル」、今回はフランス発のベストセラー小説『三つ編み』の<感想編>をお届けします。

『三つ編み』おすすめ編

おすすめ編を経て、鮭が『三つ編み』を読んだあとに、感想を語り合いました。

 

※物語の結末に触れています。これから『三つ編み』を読もうと思っている方は、ぜひ読後に本稿をお読みください。

 

 

梅:私、前回のおすすめ編で言い過ぎじゃなかった? 会話を書き起こしたら、読後感まで話してて、あら、私こんなとこまで言ってたのか、大丈夫かなって心配になっちゃって。

 

鮭:全然大丈夫(笑)。梅と話して、読後感がいいとか明るい未来で終わるって聞いて、だから希望を持って読めたけど、そうじゃなかったら途中辛かったかも。その言葉を励みに読んだところあるよ。

 

梅:ほんと?じゃあよかった。

 

鮭:3人とも苦しくなるから。

 

梅:絶望するもんね。

 

鮭:そう、ほんと聞いておいてよかった。内容も面白かったんだけど、一番印象的だったのは3人が三つ編みで繋がるところ! タイトルの意味、インドのスミタは始めの方に三つ編みにするって出てくるし、イタリアのジュリアも毛髪加工の仕事だから関係ありそうな感じだったけど、弁護士のサラだけはピンとこなくて。でもサラと三つ編みがリンクすることに気づいたときは、あ!すごい!と思った。アハ体験じゃないけど。

 

梅:アハ体験(笑)。ほんと気持ちいいよね。

 

鮭:うん、気持ちよかった。わかった瞬間謎が解けたみたいで感動したな。

 

梅:インドの物語は辛くなかった? カースト最下層のダリットが他人の家の汲み取りするとか、その差別のされようが。

 

鮭:うん、よく知らなったし、今もあるのが信じられなさすぎて、そのあとダリットについてちょっと調べちゃったりして。

 

梅:うんうん。

 

鮭:ダリットを守る法律もあるみたいだけど、差別の意識は根深く残ってるみたいだね……。

 

梅:そうか今も……。

 

鮭:あと翻訳本だけどすごく読みやすかった。各章のタイトルが主人公の名前でわかりやすいし。

 

梅:一文の短さがスピード感を生んでいる感じもするね。

 

鮭:そうそう。情景描写もたくさんあって頭の中で映像化できた。インドとか、なかなか想像するの難しいけど、丁寧に書かれてるから米びつの場所とかもイメージできたし。

 

梅:そうだね。

 

鮭:あと、3人が交互に出てきて、少しずつ話が進んでいくんだけど、いいところで次の人にいく。ジュリアのお父さんが事故にあったシーンとか。

 

梅:はいはい!

 

鮭:私、最初順番通りに読んでたんだけど、その事故のシーンだけは、先が気になりすぎて次の2人を飛ばしてジュリアの話を先に読んじゃった。

 

梅:そうなんだ!

 

鮭:そういうのしなかった?(笑)

 

梅:順番通りに読んでたよ!

 

鮭:そっかあ。もうジュリアーって!

 

梅:どうなるの?って(笑)

 

鮭:やっちゃった……。

 

梅:順番でいうと、ずっとスミタ、ジュリア、サラの順番なんだけど、一か所その法則が崩れるんだよね。順番的に次はサラの話がくるはずのところで、サラじゃなくて、スミタの話が入る。

 

鮭:ほんとだ!

 

梅:私、サラが飛ばされたから、えっ、サラ死んだの!? と思っちゃって。

 

鮭:気づかなかった!

 

梅:スミタの物語を挟んで、サラに戻ったら、文章に「不可触民、それがいまのサラの立場だ」って書かれているところがあって、インドとリンクしてるよね。

 

鮭:うんうん。なんか私、この物語がサラで終わってるのがすごくいいなと思って。

 

梅:ああ。

 

鮭:やっぱりサラって、一番日本に近いといえば近い。

 

梅:恵まれている感じはするよね。3人の中で一番の成功者というか。

 

鮭:そう。最初はサラにそんなに注目してなかった。スミタの印象強いし、ジュリアも途中恋とかして気になるし。やっぱりスミタに肩を入れて読んでたんだけど、最後サラの締めがすごいよくて。

 

梅:そう!そうなんだよね!サラが最後、美容院に向かうところの描写とかさ。

 

鮭:そうそう!これ、なんていうのかな。

 

梅:「あえて歩くことにした。それは巡礼のような、徒歩でたどらなければならない道、通過儀礼のようなもの」とかね。ここでスミタとラリータがしてきた巡礼の旅とリンクする書き方。

 

鮭:そう! 回収していくねえ!って。

 

梅:気持ちいい!みたいなね。

 

鮭:あと、インドの人たちの思想にも衝撃を受けたな。スミタの夫が「希望はこの世ではなく来世にある」って言ってて。当然のように来世もあるって思ってる。魂は永遠っていう考えなんだよね。スミタはそこで「大事なのはいまのこの人生」って反対するけど、でもきっと夫の考え方がインドでは多いんだろうね。そこが一番、勉強になったじゃないけど、ショッキングだった。

 

梅:その死生観があるからカースト制が維持されているのかもね。ダリットのままで死ぬけど今世はそれでいいって。

 

鮭:そうそう。

 

梅:じゃなかったら、とっくの昔に暴動が起こってるよね。こんなんやってられっか! みたいなね。

 

鮭:ダリット出身で知事になったっていう女クマリ・マヤワティが「死んでこの世から解放されることなど待たず、自分のため、同輩のために戦った」ってところに線を引いてる。98ページ。「死んでこの世から解放される」ってやっぱり来世があること前提で、印象的だったな。

 

梅:あ!私は同じページで「スミタは来世まで待つ気など毛頭なく、大事なのはいまのこの人生、自分とラリータの人生だ」ってとこに線引いてた!

 

鮭:へえ!おもしろい!ここだ!って思ったんだ。

 

梅:そうそう。「スミタ強い、頑張って」って気持ちで。

 

鮭:あと宗教観でいうと105ページの「シク教では女も男も同様の魂があるとされる、と説明される。男女は同等とみなされる」っていうところも線を引いてる。「男女平等のあらわれとして、シク教徒のファーストネームには男女の別がなく、どんな名前も無差別に男女につけられる」って。

 

梅:あ、そこ私も線引いた!

 

鮭:え、すごい!

 

梅:おもしろいよね。偏見だけど、シク教ってインド発祥ということだから、それこそ女性の身分が低いような勝手なイメージがあったけど、同等なんだって。

 

鮭:そうそう。同等の魂と考えたら名前から区別することないって、確かにそうじゃんって。

 

梅:名前こそ大事だよね、自分そのものだから。

 

鮭:髪の毛がいろんな人の手に渡って加工されて、最後サラに生きる希望を与えるっていう、その髪の毛の連鎖とインドの生まれ変わりの宗教観が重なってるようにも感じたなあ。なんか、目の前のことに絶望してる場合じゃないなって思った。

 

梅:なるほど! そっかそっか。

 

鮭:カルマの存在を考えてしまった。スミタの宗教でいえば、魂は前世も今世も来世も続くし、スミタの魂が髪の毛に込められて、それがジュリアの手に届いて、ジュリアが魂を込めて作ったかつらがサラの手に。そういうところにも勇気をもらえる物語なのかなって考えちゃった。

 

梅:なんだろう、一人で生きているわけじゃないっていう感じかな。

 

鮭:そう、そんな感じ。それぞれにみんな頑張ってて今があるっていう。

 

梅:たくましいよね、みんなね。

 

鮭:この中でとくに好きなのがスミタの娘のラリータで。

 

梅:わかる! 「嫌だ」って言ったところ、よかったよね。 初めて行った学校でカースト上位の先生に差別されるけど、ラリータは「嫌だ」って反抗した。

 

鮭:そうそう! カーストのこともきっとまだよくわかってないだろうに、それなのに! ラリータこそ希望って思った。

 

梅:ほんとそうだよね。小さな子どもなのに、差別に嫌って言えるっていうのが。

 

鮭:そう、そしてそのラリータの意思を守ったスミタが素晴らしいし。

 

梅:学校に縁のなかったスミタが、娘だけは自分のようにならないって信じててさ、学校に行かせる。母親としてほんとに素晴らしいね。

 

鮭:ほんとそう。

 

梅:物語の後半、サラが事務所から孤立するんだけど、でもそこで「見世物にはならず、ライオンの餌食にもならない。まだこれだけは残っている——尊厳。嫌だ、というだけの力が。」って書いてあって。この「嫌だ」っていう言葉が、冒頭のラリータと繋がってる。それに2回目を読んだときに気づいて!

 

鮭:ああ!

 

梅:サラがどん底で見つけた、自分には「嫌だ」っていうだけの力があるっていうのは、実は最初の最初、3つの国の中でいちばん差別がひどいインドに生きる、まだ小さな子どものラリータが持ってたんだよね、その力を。

 

鮭:持ってた!ほんとだ!

 

梅:そんな物語ある!?

 

鮭:プロットすごすぎる。

 

梅:ねえ。私、2回目を読んで、サラが実は弁護士という役割を演じていて、エリートだけど決して幸せではない状況だったんだなって思った。

 

鮭:そうそう、そこもハッとした。サラが最終的にどの方向に進んでいくんだろうと思ったら、自分で弁護士事務所を立ち上げる。前と同じ場所で戦うんじゃなくて、前の人生は決して幸せではなかったって自分で気づくところもよかった。

 

梅:うん。

 

鮭:最近のコロナで、絵本作家の五味太郎さんが「前の生活に戻そうっていうけど前の生活ほんとによかった?」ってインタビューで言っててそれを思い出したよ。これまでの生活に戻すことが幸せなのかと言ったら決してそうとは限らないし、今もしかしたら見直すいい機会なのかもしれない。サラがまさにそれなんだって思った。これまでごまかしていたり、実は無理していたことに気づいて、そうじゃない生き方をしようって考えるきっかけになったりとか。

 

梅:日常がいったん崩れないと、なかなか見えてこないことだよね。

 

鮭:これ、2回目読もう。

 

来週の「週末おむすびチャンネル」は、『寺田寅彦 科学者とあたま』<感想編>をお届けします!

投稿者: おむすびブックス

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