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2020.6.18 週末おむすびチャンネル vol. 7

『ある晴れた夏の朝』おすすめ編 週末おむすびチャンネル vol. 7

今回は、広島と長崎に落とされた原爆の是非について、アメリカの高校生が討論する物語『ある晴れた夏の朝』(小手鞠るい 著/偕成社)を取り上げます。おむすびブックスでこの本を仕入れた梅が、鮭におすすめポイントを紹介します。

 

梅(おすすめする人)

鮭(これから読む人)

 

梅:この本って分類は児童書なの。去年、中学生の読書感想文コンクールの課題図書にも選ばれたみたい。アメリカの高校生が、広島と長崎への原爆投下について肯定派と否定派に別れて討論会をするストーリーなんだけど、私は原爆についてディベートするっていう設定が新鮮で、それだけで、これは読まねばと思って買った本なんだよね。討論会は肯定派4人、否定派4人に分かれて、夏休みに週1回、計4回行われるの。それで一人ずつ自分たちが調べた根拠をもとに肯定、否定を主張するんだけど、根拠となる部分に原爆ってそういう背景があったのかって、初めて知ることもあって。

 

鮭:討論の内容がずっと書かれている感じ?

 

梅:でもね、討論だけじゃなくて、アメリカのティーンネイジャーのキラキラした日常も挟まってて。主人公がアメリカの15歳の普通の女の子なんだけど、討論の合間に「ああ、私にも彼氏がいたらなあ」とか思ったりするくだりもあったりして青春小説になってる。それが爽やかなんだよね。

 

鮭:そうなんだ。実際にあった話なの?

 

梅:ううん、小手鞠るいさんの創作。小手鞠さんはアメリカ在住だから、高校生は日常はリアルなんじゃないかなあ。ディベートで強調したいところはゆっくり話す、とか、あえて余韻を残すために持ち時間のちょっと前に終わるとか、そういうテクニックも紹介されてて、アメリカの子はこういう経験をして論理的な話し方を学ぶのね、とも思った。

 

鮭:テクニックとかあるんだ! おもしろいね。そんなところも読書感想文コンクールの課題図書に選ばれた理由なのかな。

 

梅:そうかも。あ、ちなみにこの討論会は図書館で開催されるんだけど、主人公たちは200人くらいの観客の前で発表してるの。

 

鮭:へえ。観客の一人になったような気持ちで読めそうだね。

 

梅:うん。観客の投票で肯定派チーム、否定派チームの勝敗が決まるんだけど、どっちが勝つの? っていうハラハラ感もあって。これを読んでアメリカ社会って成熟してるなあって思ったよ。200人の観客が本気で高校生の討論を真剣に聞いて、賛成派、否定派、どっちの意見に心を動かされた投票するんだけど、大人が真剣に高校生の意見を聞く社会、日本にこんな文化あるっけ?って。

 

鮭:そういえばディベートって学校でもやった記憶がないなあ。討論会なんてほんと遠い存在だった。市や県が開催する弁論大会っていうのに同級生が参加してたのはうっすら覚えてるんだけど、どことなく他人ごとで、大勢の前で自分の意見を主張するなんて勇気あるなあって思ってた。

 

梅:『三つ編み』も物語のプロットがすごいって話をしたけど(『三つ編み』感想編 を参照)、この小説もすごくプロットが練られてて。物語の最初に、25歳の主人公が登場するんだけど、時代は2014年なの。それで自分が高校生だった10年前の2004年の夏を振り返るという構成になっていて。じゃあ2004年のアメリカがどういう状態だったかっていうと、2001年に9.11があって、2003年にイラクと戦争状態になっているから、討論が行われていた時のアメリカの高校生が身を置いていた日常って、戦争が過去のものじゃないんだよね。今、自分の国が戦争をしている、すごく身近な状況で。そういう中で原爆の是非を討論している。それが物語に効いてくる。

 

鮭:ああ。そういう背景を知るとより興味がわく!

 

梅:うーん、どこまで話せばいいか、小説のおすすめって難しいね。昨日もう一回読んでみて、そうかこういう展開だったなって一個ハッとしたことがあって。言ってもいいのかしら…。

 

鮭:ふふ。

 

梅:討論が4回あって、最初のうちは私も傍観者として読んでるんだけど、後半のある展開から、自分の姿勢が問われるんだよね。急に、討論をしているメンバーや聴衆がバッと自分の方を向くような。

 

鮭:へえ。

 

梅:日本人のお前はどうなんだ、どう思うんだって問われるような。

 

鮭:そっか、原爆って否定が当たり前だと思ってたけど、それって日本にいるからなのかな。肯定の意見ってあんまり聞いたことない。

 

梅:そう、肯定するって価値観がまずないもんね。

 

鮭:そうそう。4対4って半分も肯定派がいるんだ。

 

梅:そう。ディベートって強制的に立ち位置を決めることもあるけど、これは心情的に肯定の人が肯定派だから。どういう理由で肯定しているかも興味あるよね。

 

鮭:うんうん。

 

梅:あと、4人の肯定派、4人の否定派、それぞれのメンバーが、ユダヤ系のアメリカ人だったり黒人だったり中国系アメリカ人だったり出自が異なるんだよね。主人公も日系アメリカ人なの。母親が日本人で。そういうそれぞれの出自も物語に絡んでくるの。

 

鮭:私、歴史にかなり疎いんだけど大丈夫かな?

 

梅:大丈夫! この本で知ればいいと思う。この討論会のメンバーには平和運動しているような、意識の高い子もいるんだけど、主人公はそれに半ば強引に誘われて参加してて、さっき言ったみたいに「彼氏、いいなあ」とか、ぼんやり思ってるくらいだから。その目線で語られるから、堅い内容じゃない。

 

鮭:よかった。おもしろそう! 知らないことが多すぎるから、まずは読んでみるね。(本をめくって)あ、最後に核に関する年表もついてるんだ。レントゲンのX線発見から東日本大震災まで。これはありがたい。梅は戦争関連の本、本当によく知ってるよね。

 

梅:でもさ、小学校の頃は、学校でよく戦争映画とか見てなかった? だから夏には戦争の本を図書館で探して読むのが、なんか習慣みたいになってた。

 

鮭:ぜんぜん見てない!

 

梅:えっ!

 

鮭:山口(梅の出身地)って広島と長崎の間だから戦争についての教育に力を入れてたとか? そんなことないか。

 

梅:なんか、ほら、夏休みに登校日ってあったじゃん。登校日はみんなで戦争の映像を見る日なの。それも結構、容赦ないというか、空襲の様子とか見せられて。人が火だるまになったり…途中で気分が悪くなっちゃう子とかいて。暑いさなかにそういうの見てたよ。

 

鮭:えーぜんぜん違う! 私は群馬だったけど、登校日は夏休みの宿題どこまでやったとかそういう話で終わってた気がする。

 

梅:そうなんだ!? じゃあどうやって戦争のこと知るの? 教科書で習うだけ?

 

鮭:うん。社会の授業の一部として習うだけで、特別に時間を設けて映像とか見た記憶がない……今梅の話を聞いてて、戦争に関する教育がぜんぜん違うなって思ったよ。

 

梅:小学6年生の時は、チラシとか新聞に載ってる顔写真をひたすら切り抜いて、原爆で亡くなった人の数だけ模造紙に貼っていくっていう授業があったよ。要は犠牲者を数字じゃなくてもっとリアルに感じようという教育だったと思うんだけど。

 

鮭:ほんとリアルだね。そんな授業受けたらきっとずっと忘れないね。

 

梅:映像は怖くて嫌だったけどね。でも、この空襲怖い!とか、戦争は嫌!というのを、感じつづけることが大事なんだと思って、小さい頃はその感覚を忘れてると思ったら、やばい、思い出さなきゃっていう脅迫感みたいなものがあった。

 

鮭:脅迫感! そっかあ。戦争関連の作品に対する見方もぜんぜん違いそうだな。

 

梅:ただね、『ある晴れた夏の朝』を読んで思ったのは、私はもう恐怖心が植え込まれてるから、感情的になりすぎて、是非を考えるっていう視点を全く持ってこなかった。とにかく原爆って聞いただけで「怖い!」「絶対ダメ!」で思考が止まっちゃうの。だから、2003年のイラクの時に核兵器の話になっても、嫌な気持ちになって終わる。歴史とか世界情勢とか、いろんな角度から根拠を組み立てて、それで自分なりの意見を持つことが全然できてないんだよね。感情でシャットアウトしてしまって「核はダメ」と思ってるだけだから。もうちょっといろんな方向から考えないと、これから先の、じゃあ、核兵器を世界からなくすためにどうしたらいいの、って議論ができないなって思った。

 

鮭:そっか、そしたら肯定派は新鮮だね。

 

梅:うん、まず論戦するってのが新鮮。

 

鮭:私は読書感想文を書く中学生と同じ気持ちで読めそうだな。

 

梅:今は学校で戦争をどう教えてるんだろうね。

 

鮭:ね。地域差もありそうだし。あ、小手鞠さんは岡山生まれなんだ。

 

梅:ほんとだ。1956年生まれだから、お父さんお母さんが戦争を経験しているね。世代間でも戦争に対する感じ方は違うよね。

 

鮭:うんうん。今って戦争を経験した人も年々いなくなりつつあるし、ちゃんとアーカイブしていかないとって時代でもあるよね。

 

梅:そうだね。NHKの番組だったかな、AI技術で戦時中のモノクロ映像に色をつけてて、それを見たら全然印象が違って、本当に生き生きして見えるんだよね。過去の人じゃなくてすぐ隣にいる人みたいで。

 

鮭:肌色がつくだけでも違うよね。

 

梅:今の子は今の子で、戦争に対する手触りが違うのかもしれないね。

 

鮭:うん、中学生の読書感想文も読んでみたい。まずはこの本、読んでみるね!

 

次回は、鮭が読んだあとで感想を話し合う<感想編>をお届けします。

投稿者: おむすびブックス

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